かんたんな事だったんだ、見上げればそこには空があるって事を忘れていた。

「あなたは文字の人だ」そう言われた事がある。もう何年も前の事だ、それも僕にとってはあまり気持ちの良い思い出では無く、出来る事なら思い出したくない過去に一つ。

 

僕はいつかの顔を持っている、その一つに役者としての顔がある。正しくは役者だったと言うべきなのかもしれない。その数年前に役者として活動していた時の事、芝居の稽古の時だったか、それが終わってからだったか、その辺りは曖昧だが、芝居を演出する側の人に言われた言葉だ。「あなたは文字の人だ。頭の中には文字が沢山あって、その文字を言葉としてあなたは発している。文字がどんどん溢れてくるタイプの人なんだね。」確かそんな事を言われた記憶がある。確かにそれは一理あると言えばその通りなのだが。実際のところはよく分かってはいない。読書は好きだし良く本を読む、最近は以前ほど読む時間が取れていないが、以前は司書官になろうと思ったぐらい本が好きだった。本を読む事が1日の大半の時間を占めて、本が読みたくて大学を休む事もあるぐらい本に夢中だった時期もあった。それが最近、本を読む習慣というものがトンと減ってしまった。別に本が嫌いになったわけでも、活字が苦手というわけでもない。本を持ち歩く事が減ってしまって、自然と本から遠ざかっていく日々が多くなったためだ。最近、本を読む機会が減ったなと思って、電車の中などを見渡すと電車の中の乗客は本を読む人より圧倒的にスマホを弄っている人が多数を占める。その中の一員に僕もなってしまった、ただそれだけだった。

 

昨年は僕にとってあまり良い年であったとは思えない。新しい事に挑戦して、新しい環境で、一から学び直し、決意を新たに奮起していたのだが、その途中大きな失敗をしてしまい、そこから不調な日々が多くなってきた。以前の僕は失敗に対して寛容であり、その失敗から学ぶところ、今後に活かすところ、マイナスをマイナスだけで無くプラスへと変換出来る何かを血眼になって探し当てる、そんな人物だったのだが。その大きな失敗以降そう思えなくなっていた。

 

本好きは本をあまり読まなくなっても本質は変わる事が無くて、買う気が無くても本屋に何となく立ち寄ってしまう。先日ふと時間潰し程度に本屋に寄った際に気付いた事がある。僕は本を読まなくなっていたという事に。失敗したマイナスをプラスへ変換していけるところは僕の長所の一つだと思っていたが、それが出来なくなってしまっていた理由の一つに本を読まなくなっていたからだと気付いたのだ。別に本の中に答えがあるとか、そんな単純な事でも無いのだけれど、本を読むというのはある種の自分との対話なのだ。本を読んで自分自身の過去の経験とが混ざり合って新しい何かになる。それが読書の良いところだ。その本というのが別に実用書とかで無くても良くて、小説でもエッセイでも雑誌でも何でも良い。活字として文章になって書かれているものであれば、そのジャンルはあまり拘らない。大事なのは著者が居て、その著者が自分の意見を文字で表現していること、そしてそれを読んで、吸収して自分の身体に取り入れて、理解すること、それが大事だってことを長らくの間忘れていた。今年はもっと本を読んでいこうと思う。

 

どうやら僕は「文字の人」で間違いないらしい。